2021/03/13 大学全般 お知らせ

学長メッセージ 卒業生・修了生へ

2020年度の学位記・修了証書授与式は、皆さまの健康と安全を第一に考え、学科ごとの開催となりました。皆さまの晴れの門出にあたって、ここに学長としてのメッセージを送ります。

 

卒業生、修了生の皆さん。ご卒業、ご修了おめでとうございます。

私たちはこの数年の間に、困難な、そして未経験の環境の変化、そして社会生活の変化を経験しました。

2018年9月には、北海道胆振東部地震がありました。本学が所在する札幌市東区は、この地震で札幌市内最大の震度6弱を観測し、本学は施設設備面での大きな被害を受け、北棟1号館を失いました。震災被害からの約半年の間、在学中の皆さんにはさまざまな不都合をおかけしましたが、幸いにも2019年4月には、建設中であった新棟(A棟)が完成し、これと並行して、既存校舎の改修工事が行われ、食堂のリニューアル、トイレの全面改修、学生相談室と保健室の整備など、施設設備面での改善が進みました。

さらに、2020年度には、新型コロナウィルス感染症の拡大という事態に直面しました。新型コロナウィルス感染症の影響により、私たちは従来のようなキャンパスライフを満喫することができない状況を余儀なくされました。短期大学部を卒業される皆さんは、新たに完成した新棟(A棟)を利用する最初の学年でしたが、残念ながら2年目はコロナ禍の中、新棟(A棟)で過ごす時間も大幅に制限されることになりました。

激しく環境が変化する時代において、人類は必ずしも常に100%の対応ができるとは限りません。これまでの常識や意識にとらわれて、新たな現実、環境の変化を認めたくない、受け入れたくないという気持ちも生じます。しかしながら、さまざまな環境変化の中で、社会生活の変化を強いられることで、人類は更なる進化を遂げようと試みます。人類は社会的な制度や仕組みを発達させることによって、安定した生活を確保しようとする生物種です。未曾有の環境変化の中で、時に想定外の変化への対応が問われる事態に直面しますが、そこでは環境の変化に応じた、スキルの向上、制度の変革、意識の改革が求められます。

コロナ禍の中、ソーシャルディスタンス(social distance)ということが言われていますが、これは正確には、ソーシャル・ディスタンシング(social distancing)、あるいはより正確には、フィジカル・ディスタンシング(physical distancing)と表現されるべき事柄です。感染を広げないためのフィジカル・ディスタンシングは必要ですが、人類が環境変化に適応し、社会性をもった生物種としての進化を遂げるためには、より積極的なソーシャル・コミュニケーション(social communication)が必要であり、そのためには社会的な親密さ、ソーシャル・クロースネス(social closeness)が必要です。人類は、高度な社会性(sociality)をもつことで、種としての進化を遂げてきました。人類の社会性は時代とともに変化してきましたし、環境や生活の変化とともにこれからも変化し続けるでしょう。

コロナ禍の影響もあってか、最近ソロ・キャンプ(solo-camp)というものが静かなブームになっているようです。背景には、一方で、個人化の進行があります。他方で、こうした営みは社会性に支えられています。私たちがソロ・キャンプするにあたっては、それまでに蓄積された社会的な情報を活用することが不可欠ですし、実際に装備する道具は、社会的分業によって生産されたものを利用しています。実は、ソロ・キャンプという営みは人類が積み上げてきた社会性に支えられて初めて可能となっています。

キャンプ(camp)というのはもともと、野営や宿営を意味する言葉です。また集団性を意味する言葉でもあります。その意味で、ソロ・キャンプというのはやや矛盾した営みであるともいえますが、改めて人類の原点を見つめ直す時間と空間を経験する機会にもなっているようです。そこには、人間発達の原点としての「火」の使用、人間文化の原点としての「食」の摂取、人間文明の原点としての「住」の工夫がみられます。現代では、キャンプ地に向かう際には、車を利用する場合が多いでしょうが、キャンプ地での生活を含めて、そこには「歩く」という営みも欠かせません。人類は、食や宿営地を求めて「歩く」ことで脳を発達させてきたとも言われています。

SDGsという言葉を聞いたことがあると思います。「持続可能な社会の形成」ということが、現代の、そしてこれからの人類にとっての課題となっています。私たちは、社会的分業と社会的情報が複雑に発達する一方で、個人化がますます進展する、そういう時代を生きています。そうした中で、どのようにして持続可能な社会をつくるのか、そもそもどのような社会が持続可能なのかが問われています。いくら熟議や熟慮を重ねても、実際に社会的に現実化されなければ、それが頭の中に思い描いた世界にとどまっているうちは、それは絵に描いた餅に過ぎません。論より実行。人類が直面する社会的問題は、実践的に解決する以外にありません。

人類は社会性を生きる動物です。社会が人間をつくり、人間が社会をつくります。社会がよくならなければ、人間もよくなりません。自分が変わることで、社会も変わります。人間は関係を生きる存在です。関係をつくることで人間がつくられます。このことはとても大切なことだと思います。個人形成と社会形成とのあいだには、対立や緊張関係もあります。自分のことで精一杯で、社会のことはちょっと放っておきたいという気分になることもあるかもしれません。しかしながら、自分づくりと社会づくりには必ず共通のインタレストが存在します。これをひとつひとつ具体的に解決することで、自分と社会とのつながりが見えてくると思います。自分をつくることと社会をつくることがうまく共通のインタレストで結びつくと、自分の成長と社会の発展が重なって見えてくるのだと思います。そのためには、個別的・具体的な問題を、社会的・普遍的な問題へ変換する力が必要です。共通のインタレストを実現するには、個別的・具体的な解決策を見出し、実際に解決していくことが必要です。

‘the social’ is real. 人類にとっては、社会的なものこそが現実です。多様性に満ちた世界の中で、社会の現実を生きることが求められます。コミュニケーション能力を磨き、異質なものとのコミュニケーションを積極的にとることで、ぜひ「おおきな人間」になって欲しいと思います。それが、社会を生き、自分を生き、人生を生きることだと思います。

Living Together in Diversityという言葉があります。ダイバーシティとは、多様性という意味です。多様性の中を共に生きる。「共なるいのちを生きる」というふうに訳されたりもします。人間の多様性を生きるということは、異質なものとの対話をするということであり、その中で個性を見いだすことが可能となります。多様性はとても大切な価値です。多様性がなければ進化は生まれません。多様性があるからこそ進化がある。多様性があるから分業も発達し、豊かさも生まれます。

Living Together in Diversity. ただ単に異質なものを尊重し共存しているだけでは不十分で、積極的に対話をし、コミュニケーションをとる。そのことで自分の個性、オリジナリティを磨き、社会性を高める。新しい環境変化の時代には、そういったことがますます求められます。

最後に、「身の程を知り、身の丈を伸ばす」という言葉を贈りたいと思います。「身の程を知る」というのは悪い意味でも使いますが、そういう意味ではありません。自分の今の現状を知ること、自分はどの程度の自分なのかを知ることで、自分のさらなる「丈を伸ばす」ことができる。身の程を知らなければ自分の背丈も伸ばすことができないということです。本学の建学の精神にもつながる親鸞聖人は、自らを凡夫と呼びました。これは取るに足らないひとりの人間だということです。しかし、彼が考えたのは、でもみんなに共通するインタレスト、みんなにとっていいことってなんだろうということです。こうした社会的な普遍性について深く考え抜いたのが親鸞聖人です。

ぜひ、多様性に満ちた社会の中で、異質なものとのコミュニケーションを積極的に行い、自らの個性を伸ばしてください。そしてひとつひとつの具体的な問題を、具体的状況の中でひとつひとつ解決する努力をしてください。自分だけでなく人類社会に共通するインタレストを実現してください。そのことが人間としての成長につながるのだと思います。

以上を、皆さんが卒業するにあたっての学長メッセージとします。

2021年3月13日

札幌大谷大学・札幌大谷大学短期大学部 学長   髙橋 肇